「臼鯨」1
Call me Antaru...
ボクのことは暗樽と呼んでいただこう タルタルの暗黒騎士である マウラを根城にして腕ひとつで生きている冒険者の一人だ 時々R指定のSSなんかも書いて生計を立てているのは内緒だwww ハーマン・メルヴィルの「白鯨」の真似をしようとして早くも頓挫したwww まあ、話は手っ取り早いほうがいい 海と陸との温度差で発生した濃霧がマウラ港を押し包んでいた 早朝だというのに、船員相手の料亭では、人々が酒を嘗めうんざりした顔を見合わせていた。 「ずいぶん不景気そうですね」 ボクは同席したヒュムに尋ねた 通常なら皆海へ出かけている時間帯で、がらがらのはずの店が混んでいる 「出たんだよ、また」 「なにが?」 「知らないのか?臼鯨だよ」 「臼鯨????????」 「臼鯨」……それは、群れを離れた一頭の孤独で凶暴な、白い海獣だった。 時折、漁船の行く手に出没し、ひどい惨害をもたらした。 現実に奴と出会い戦った者は数少なかったが、その話は恐怖の伝説となり、漁師たちは、その名を聞くだけで心底震え上がるのだった。 「あいつが出るとしばらくは船が出せなくなる。 もっとも、そういうときに限って船員を掻き集めにくる既知外みたいな船長もいるから気をつけなよ」 ヒュムがそう言ったときだった こつーん、こつーん 霧の中に、規則正しく石畳を叩く音が流れた 「きやがったぜ糞樽船長がよ」 「あの死神め、今度は何人殺すつもりだ」 店内に、不思議な緊張が走る 嫌悪と期待 いっせいにお喋りがやんだ ボクは目の前のヒュムに尋ねた 「糞樽船長とは何者です」 ヒュムは答えた 「まともな人間ならwww あんたに親兄弟や身寄りがあって、少なくともこの地上に愛するものがいるんならwww あいつにかかわるのはやめときな」 その船乗りはぶっきらぼうだが親身な口調で言った 「臆病者がwww余計な事を吹き込んでいるらしいなwww」 いつのまに背後に立っていたのだろう 片足をオートマトンの人工器官に置き換えた小さなタルタルの黒魔道士が隻眼を光らせていた。 いや、光っているのはメカニックな義眼のほうで 残された肉眼は深淵のように人の心を引きずり込む色をたたえている 「このあいだのオペレーションじゃwww出航早々ケツをまくって逃げ出したチキンがwww いまさら俺の仕事にアヤをつけようたあwwwどういう了見だ?www」 「ふんwwwあんたの作戦は集団自殺みたいなもんだwww あんたが臼鯨と刺し違えようってのはあんたの勝手だがwww生活のかかった俺らを巻き添えにするなwww 死にたいなら一人で死ねよwwwヴォケがwww」 「いくら俺の仕事をけなして賛同者を増やしたところでwwwお前がチキンだって事実は揺るがせもできないぜwww」 片脚隻眼のタルタルは機械の腕を口元に当ててひとしきり嘲笑うとボクに目を向けて 「臆病ってのは感染力が強いからなwww あんたも真っ当な男として生きていく志があるんならwww 付き合う相手は選んだほうがいいぞwww」 げらげら笑いながら奥の席に向かう たちまち一癖も二癖もありそうな屈強な男たちが、親しげに彼を取り囲み席を用意した 糞樽船長・・・なかなか面白そうな人物だ ボクは彼の船の乗り組みとなることを決意した 「臼鯨」2へ
by cap_samurai
| 2006-06-28 18:26
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